Episode 3:おかしなヤツ



 もう君のことを好きになっていたなんてね。
 おかしなお話。

 この危険な街のなかで。

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 目覚めると、リリーが横にいた。
 なにをやっていたのかとか、そういうことはまったく覚えていない。
 なんどか愛撫して、それから抱きあって、キスして、多分それからだろう。
 最後に見たのは彼女の笑顔。

「なんかクスリでもつかったんだろ」
「そんなの使わないよう」
「つかったろ? 流し込んだな?」
「するわけないじゃん。そんな都合のいいクスリがどこにあるの」

 そんな会話をしながら、二人は昼過ぎになってもその部屋で過ごしていた。他愛のない話だったり、おいてあった酒を飲んだり。
 ジースターは今日は仕事が休みだったので、ほっとした。
 なんだか朝起きても力がでないというか、なんというか。
「なんでいかねえんだ?」
「ん、なにが?」
「お前のさ。今日の仕事はいいのかよ? 他の連中が待ってんじゃねえか?」
 そういいながら、外を指差す。
 リリーはクスクスとわらうと、ジースターに抱きついてきた。
「いいのよう。どうせ割り当てあるわけじゃないし」
「昨日会ったばかりじゃんか」
 呆れたとばかりに息をつく。
 目の前にリリーの綺麗な金髪が流れてきてくすぐったかったが、ジースターはいつの間にか彼女の背中に手を回していた。
 自分のもう片方の手は自分と彼女の間に入り込んでいる。
 気がつくとその手は彼女の胸に触れていた。
 ふと考えてから・・・・・・・やめる。
「こういうことって仕事だろ? よくなんの抵抗も感じないよな」
「好きな相手にしかこういうことはしないよう。あたしあんた気に入った」
 好きか。
「へえ・・・・・・・・」
「変わり者なの。あたしはね」
 リリーはにこにこしながらそう言った。
 ジースターは自分でその気持ちはわかっていたが、昨日会ったばかりで、しかも娼婦相手に一目惚れなんてした日には職場の連中に笑いものだろう。
 そんな自分を自嘲しながら、ジースターはリリーにぶしつけに言った。
「変わり者ね。自覚あるのかよ」
「それなりにね。だからあんまり友達いないのよう」
 変わらぬ調子でおどけてくる彼女に、ジースターは言った。
「人を信用してなさそうだもんな。そりゃそうだろ」
「バレた?」
「ばれた」
 軽く笑ってみせるリリーを隣に寝かせて、ジースターはため息をついた。
 頭を抱えて、振ってみせる。
 それから横になって目を瞑っているリリーに目をやった。
 なんなのか。
 彼女が美人ってだけなのか。
 これって単純ってことなのかな。
「信用してないってことか。やっぱお前らはみんなそうなのかねえ?」
「あたしぐらいじゃないかな。てゆーかね、誰も信用できないわけ。人間てさ。そういうのじゃない? 借金とりとか、変態とか、うーん。あと色々。そういうのしかいなくて全然信じらんないの。そんな今の状態だとね。寂しいじゃない」
「そういうことってわざわざ言うことじゃないとおもうんだけどな。はあ」
 よくわからないが、ジースターは手を伸ばして、リリーの腕をとった。
「なに?」
 彼女が怪訝そうに聞いてくる。
 しばらく彼女のうでを見つめたあと、ジースターはとある部分を指差した。
「これ」
 彼女の手首。
「なんの傷跡だ?」
「なんのって・・・・・・」
 リリーは少しこまったような顔になった。ジースターは彼女のその手首を横切るようについている傷をみて、再びたずねた。
「切ったのかよ」
「昔ね」
 そうはいったが、ジッサイのところ、傷口はまだ新しい。
「最近だろ。これ」
「うん」
「誰も信用してないから、誰にも話さなかったんだろな・・・・・・・」
 ジースターの言葉に、リリーはきょとんとした。
 だが、どうしたことだろう。
 急にジースターの中に暖かい気持ちが出てきた。
 何かに対する、やってやれそうな気持ちだ。
 自分でもなんだかわからないまま、ジースターの腕は伸びてリリーの背中に回された。
 彼女はきょとんとした表情のままだったが、特に抵抗もすることなくジースターの腕の中に入り込んできた。
 ジースターは彼女を抱き寄せると、そのまま覆い被さってキスをした。
 それから口を離すと、彼女と額をあわせながら言った。
「じゃあ俺がお前の話相手になってやるよ。いつでも」
 彼女はこちらを不思議そうな表情で見つめてきていたが、やがて腕の中で声をあげて笑い始める。
 そんな彼女を見て、ジースターは訝しげに目を細めた。
「あはは、ごめん。そうくるとは思わなかったから」
「わけわかんねえよ」
 適当にぼやきながらリリーを開放すると、体を起こしてから脱ぎ捨ててある上着から煙草をとりだす。
 そこらで買った安い煙草だが、ジースターはこれがお気に入りだった。火をつけて、煙を吐き出す。
「そんなこと言ってくれたのあんたがはじめてかも」
「へえ」
「娼婦相手に相談のるぞなんていわないもの。大抵あたしらって身体を売ってるわけだからさ、心まで気にしないよお?」
 リリーはまだ笑いの余韻を残す顔で、ジースターを見つめた。
 そしてこちらの手を握りながらいってきた。
「愛してる。結婚して」
「あのな・・・・・・・・」
 昨日会ったばかりだろ、といいたかったが、断る理由もみつからない。
 ジースターが返事に困ってると、リリーは再び笑いながら、こちらの背中を叩いてきた。
「冗談よう」
「だろうなあ」
 なぜか落胆するような気持ちだったが。
 てかなぜ落胆するのだろう?
 きっと彼女はいろんな男に同じ科白をいうのだろう。
(不思議なヤツ)
 彼女がどんな印象かといわれると、そういう感じしかしないのだった。



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