Episode 12ピースオブハート



 ここに来たのは昼ぐらいだったはずだが、気付けばすでに夜は過ぎていた。

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 鳥のさえずりで目がさめる。
 どのくらい彼と身体をあわせたかはわからなかったが、とりあえずリリーが目覚めると、すでに時は朝だった。
 日は上がり始める、すがすがしい独特の空気が半開きの窓から入ってくる。
 嫌いではない、というか、この時間に起きたことが少ない。
 起きるのは大抵昼ぐらいだ。夜は夜で仕事があるので、疲れ果てて眠ってしまう。
 久し振りの朝。
 リリーが目覚めると、ジースターの姿はなかった。
 自分だけ。
 確かに一緒にいたはずの彼の姿はなかった。
 
 ベッドのシーツはなぜか綺麗なものに取り替えられていて、そこに自分は寝かせられていた。
 何も着ていないことだけは変わっていない。。
 ドレスはベッドの隣のテーブルの上にたたまれておいてある。
 血のついたシーツと、あの紙袋はなんだったのだろう。
 そんなことを考えながら、またシーツにくるまってベッドにもぐりこむ。

 彼はどこにいったのだろう。
 ふと、視線を上げると部屋は前と変わりがない。
 いったいジースターは何をしていったのだろう。
 また、人を殺しにいったのだろうか。

 そう思うと、涙が滲む。

「いかないでよ・・・・・・・・!」
 思わず口にだして呟いてしまう。

 彼に声が届いたかどうかはわからない。
 なんだか無償に哀しくなり、リリーはまだシーツにかすかに残るぬくもりを抱きしめた。

 消えてしまうことを恐れるように。




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 やっぱり世界ってのは理不尽だ
 ながれがあり、ヒトの心や気持ちなんかお構いなしにどんどん先へ先へと進でしまう。
 そして気付いたときには手遅れで、やり直しなんてききやしない。
 もっとも最悪な失敗例だ。

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 どさり。
 血まみれになった女が道路に倒れる。
 悲鳴すらでなかった。
 喉が大きく開いていて、すでに事切れていることは確かだが、それでもまだなにかが足りない。
 ナイフを振りかぶって顔面に突き刺す。
 手元に力をこめてそれをまわして中身をえぐったあと、腹にてをやっていっきに上から下へかっさばく。
 内蔵がどろりと顔をみせた。
 そこに空いている手をつっこんで中のものを掴み、一気に引っ張り出してそこらへんにぶちまけた。
 盛大な血しぶきがあがるが、気にしない。
 最後にその死体をけって、ナイフをしまいこんでから路地を飛び出す。
 ジースターのトリップ状態はまだ続く。


「ハア・・・・・・ハア・・・・・・・」

 トリップ状態は、時々訪れる。
 しかも夜がほとんどだ。
 がくりと思考が落ちたかとおもうと、次の瞬間にはハイになっていて、動くことが苦痛じゃなくなってくる。
 それと同時に湧き上がってくるのは、強烈な怒りのようなもの。
 そして攻撃衝動。

 それはすぐに切れるような気がする。
 大抵意識はぶっ飛んでいて、なにをしているのかすら定かではない。


 息がきれてきた。
 なにがなんだかわからないトリップ状態はたいてい日があがると同時にいつも終わる。
 気付いた頃には自分は血まみれで、手にはやはり血まみれのナイフ。
 どこかしこも真っ赤で、視界すら赤く歪んで見える。

 自分はどこも傷ついていないのに。


「・・・・・・・・・・・」

 なんだか猛烈な空虚感を抱きながら、ジースターは近くの路地に膝をついた。
 なぜ自分がこうなっているのかよくわからない。
 ぼんやりと宙をみつめた。
 そこからなにかがでてくるわけでもなく。
 そこからなにかが得られるわけでもなく。

 ジースターは倒れた。
 頭にもやがかかったようになって、なにもかも動けなくしていく。


「あー・・・・・・・・」


 すべてを見失っていく。
 なにがなんだかわからなくて、いまここがどこなのかすらつかめなくなってくる。
 そしてそれと変わるように、自分の胸のあたりからなにかがなくなっていく。
 あえていうなら、心のパズルピースがひとつひとつ奪い取られていくような感覚だった。
 どうしようもないことは分かってはいたが。


 と。


「・・・・・・・・・はあ、やっぱり君か」

 男の声がした。
 横に倒れたまま顔をすこしあげ、視線だけで見上げると自分と同い年か、すこし上くらいの金髪の青年が目の前に立っている。
 彼はこちらを見下ろしながら、笑いもせず、言ってきた。

「明らかに僕のミスだったね・・・・・・・わるいことをしたよ。もっと実験対象は選ぶべきだった・・・・・・選んでもこうなっていたのかもしれないけど」

 なにをいっているのかわからなかったが、ジースターはその男を見つめた。
 顔はよさそうだが、その表情にはいささか疲労がうかがえる。
 たしか見覚えがあった。
 そう、新聞とかでよくみる。
 女王の孫の―――――――

「心の欠片なんてもんは奪うもんじゃないんだよね。やっぱ人間さんの手にかかれば悪いものもできてしまうってわけか。自然が一番ってことはわかってるけど、やっぱりいいほうにいきていたいからね。みんなさ」

 どうだってよかった。
 ジースターは腰の後ろに手を回すと、そこにあるはずのものを探した。

「とりあえず、僕は殺人鬼になる気はないけど、君をそうしてしまった責任はとらなくちゃね・・・・・・返してあげるよ。その欠片」

 もはや聞き飽きた。
 どうだっていい。

 その男はこちらにむかって手を伸ばしてきた。
 ジースターはその手がなにをしようとしているのかが見えた。
 その手のさきに、半透明のなにかが握られている。
 それは―――――――

 ジースターは目を見開いた。

「うわああああああああああっ!」

 声をあげると同時に跳ね起きる。
 男がびくりと身体を仰け反らせた。

 続いてナイフを突き出す。
 突然の攻撃に男は反応できなかったのか、身体をよこに捻っただけだった。
 ジースターの身体もふらついていたせいか、そのナイフは空を切り、男の脇を通り過ぎて後ろの建物の壁に突き刺さった。
 そして抜けなくなる。

「・・・・・・!」

 ジースターはいっきに身体をひるがえすと、ナイフを手放して一気にその場から走り去った。
 とにかく全力で走った。

 怖くなったのか、その男が恐ろしかったのか。
 それとも・・・・・

 よくわからないが、ジースターは体力が保つ限り、全力で走り続けた。

 ++++


「やれやれ、あいつは・・・・・・・・」
 クラレンスは壁に突き刺さっているあやうく自分に刺さりそうだったナイフを見つめながら、首を振った。
 裏路地のむこうがわにあのジースター・ジェイスは走っていったが、おそらく呼び止めても帰ってはきまい。
 しかもあの様子だとそれなりの処置が必要だ。
「まいったなあ・・・・・・あー、くそ」
 ナイフをみやると、殺人を犯してきたばかりなのか、血のしずくがぽたり、ぽたりと地面に落ちていた。
 クラレンスはそれを引き抜くと、柄のところの指紋をふき取って近くのゴミ捨て場に埋めた。
 王宮にいるときには滅多に使わない汚い言葉でなにかをののしると、クラレンスは表通りにでて、歩き始めた。

 この事件を終わらせる必要がある。
 すくなくても、けじめをつける必要がある。


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