episode 24: STEALTH



 アザミは今だに煙をあげている眼下の爆発をみた。まるで火山でも会ったかのような大きな爆発。それが空を突き抜けて夜空に大きな雲を形作っている。それはまるで......
「水爆......なの?それにしては規模が小さい気がする」
 小さくつぶやいた。その後下から味方機が二機、近づいてくるのが見える。そこにあがる巨大な雲。大きくえぐられる地面。
 ドーム上に広がり、衝撃が山間部を粉砕していく。
 吹き上がるように砂煙があたりを埋め尽くし、キャノピィのガラス越しにその衝撃はアザミの元にも伝わってきた。
 燃料がフルになったことを機械が伝えてくる。いくつかのレバーをあげ、機体を空中給油機から外した。機体のエンジンがうなりをあげ、高度を少しずつ下げていく。
 と、キャノピィに小さく水滴が付着した。思わず空を見上げる。
 水滴。違う。
 雨だ。
「こんなときに」
 小さく口の中で毒づきながら降雨時に使うシールドをキャノピィに張った。薄い防水膜で防弾にはならないが水で視界が狭まるのを防いでくれる。
 だが、それを抜きにしても雨天はパイロットにとって不吉なものなのだ。さらに強くなれば飛行、そして戦闘に影響がでるのは明らかだ。
 どうしたものか。
 次の行動を思案していると、不意に通信がはいった。
『ディーノ!』
 赤いランプ。ストロークに乗っているから味方の戦闘機。スコットだ。
 横をみると、丁度アザミの横をジャックとスコットの機体が通り過ぎ、給油機に向かったところだった。まだ仲間がいることに安堵しつつこちらも無線機をあげる。
「レックス、スピン、無事だったのね。他のみんなは?」
『みんなやられちまったよ。敵のミサイルが新型だったんだ』
 疲弊した声でジャックが応えてくる。それにややあきらめがちな声音でスコットが続けてきた。
『チームワークもあってないようなやつらじゃ仕方ねーよ。そっちの損傷は?』
「あたしは平気」
 息をつく。結局。それが仇になって彼らは撃墜されていったということか。シーナもそうだがうちの戦闘機軍団はもっとチームワークという言葉を学ぶべきのような気がする。
(ま、あたしがいえたことじゃないんだけど)
 現状を鼻で笑いながら下方を眺める。煙は相変わらずあがっていき、周辺の集落や森林を土石流のように容赦なく飲み込んでいく。
「放射線の反応はない。とりあえずあたしがいく」
『ちょっとまてよ。またか?』
『俺らが来た意味がなくなっちまうだろ』
 二人が続けて文句をつけてくる。給油機の二人を見上げるとアザミは息をついた。間髪入れずにプライムからストルウェルの声が入ってくる。
『ディーノ。二人を待て。それから周辺情報を報告してくれないか。君らのいるサイトの様子がおかしい』
 その通信を受け取った瞬間、遥か下方から熱源の反応がかえってくる。そして間髪入れずこちらにむかって数発一気に放たれてきた。
 それを視界に認めると、アザミは小さく呟いてスロットルを押し上げた。速度をあげて離脱。残像を掠めるように弾丸が自分が飛んでいた先を追っていく。
 そして、その先は。
「いけない! レックス! スピン!」
 二人を呼ぶ。スコットとジャックはまだ燃料の供給中だ。空中給油機の腹部にそれらが命中していく。
「引火する! 早く離れて!」
『なんなんだよ!』
 スコットの叫ぶ声が無線越しに伝わってくる。二人の機体が給油機から離れると同時に加速。
「高度をさげて! 急いで!」
 アザミが急いで無線機に叫ぶと同時に、後方で大きな爆発が起こる。火炎が空中で風船のように膨らみ、張り裂けた機体の壁が細切れになって周囲に散乱する。
 衝撃が機体を揺らし、キャノピィ越しに振動が伝わってきた。操縦桿を握る手に思わず力がはいる。背後からオレンジ色の光が周囲を照らすのが感じたが、アザミは後ろを振り向かなかった。
 給油ポッドの中に引火したのは確実である。あれだけの巨大な爆発なら二人は無事ではすまないだろう。あまりの熱量に確認する余裕もない。
 スロットルをさげて速度を落とす。が、すると今度は下方から火炎弾が再びこちらを狙ってきた。
 機銃程速度はない。それでも十分速いが、どこかのろのろとした弾丸。それで機体を捉えられるわけもない。それが四発。
 アザミは総循環を切ってバレルロール。それらを躱す。後方に消える間もなくそれらは地面に落ちていった。山火事にならなければいいけれど、と口の中だけで呟く。
 と。
『ディーノ! 下を気をつけろ!』
 下、下、下。
 暗闇が一気にせり上がってきた。闇の中から闇がうまれるように。
 黒い何かが地面から現れた。
「......なにあれ」
 エレベータアップ。高度をあげる。
『ディーノ!』
「ごめん。無事だった?」
『俺もスピンも無事だ。それよりなんなんだあれは?』
 二人からも見えるらしい。こちらより遠くにいるためぼんやりとしかみえていないのだろう。
 こちらもそれほど明確に目視できるわけではないが、そこにあるのは巨大で漆黒な外装に包まれた正三角形の飛行物体。それがゆっくりと地面からせり出してきている。
「わかんない。ストローク3を大きくした感じ。でもスピードが遅いわ......撃ってくるから気をつけて」
 アザミはそういうとそれに近寄る。
 ピッチダウン。黒色の外装に二等辺三角形といったところか。しかもかなり大きい。
 それを後ろの二人に伝えようと通信をあげると、突然割り込みが入ってきた。
『や、クエンフィールド。先日はうちの部下がお世話になったね』
 眉をあげる。その発信元は下の機体からである。こちらがなにか言い出す前にそれはこちらにむかって割り込んできた。
『借りを返そう』
 疑問符を浮かべながらアザミが下方を睨みつけていると、横から突然スコットの声が聞こえてきた。
『あー、コールド? やっぱりか』
 彼のもとにも伝わっている。
「なんで声だけでわかるのよ」
『そいつ国際手配されてるテロリストだよ。お前の乗ってるの新型なんだから声帯判断くらいついてんだろ』
「そもそも使い方がわからないっていう話なんだけど。それで借りっていってんのね。だけどさ」
 そこで一旦切る。近くにいると狙い撃ちされる可能性がある。一度フラップアップ。
「何の件? 心当たりがありすぎてよくわかんないわ」
『同感だ』
 スコットも同調してくる。彼が横についてきて、敵の機体のすれすれを飛行する。かなり巨大だ。
『あがるぞ』
 インメルマンターン。二人が高度を稼ぎ敵機から離脱。続けて迎撃するように後ろから砲撃が襲ってくる。スコットが報告する声が聞こえてくる。
『プライム、敵はアーク・コールド、国際指名手配されているテロリストだ。迎撃にはいる』
『迎撃を許可する。ディーノとレックスで敵機を撃墜しろ。スピンは高度を稼いで上空で待機』
『了解』
 ジャックのその返事を皮切りに三機はそれぞれ分散した。彼の機体がピッチアップ後高度をあげていくのを視界に収め、アザミはスコットの機体の斜め後ろについた。
 彼の機体がスプリットS。高度をさげるのが見えたがアザミはそこでインメルマンターン。逆に高度を稼いだ。これで二機が狙い撃ちされることはないだろう。
 その大きな正三角形の何処を攻撃すればいいのか悩むところだ。
『ディーノ、お前残弾は?』
 手元のメモリを見ながらアザミは息をついた。
「機銃はさっき補充したからあるけれど、ミサイル系はブラスト一発しかないわ。エバンテとのファイトで殆どつかっちゃったから」
『仕方ねえか。プライム、策を考えてくれ。こちらの手元にもミサイルはない。スピンはあるだろうが、敵の装甲の硬度がわかると......』
 そこまでいいかけてスコットが言葉を止めた。彼が焦燥の入り混じった声音で呟いてくる。
『これ、盗聴されてないか?』
 なにを今更。
 アザミが口を開いた瞬間、敵はこちらに向けて砲撃してきた。バレルロールしながらアザミとスコットの機体がV字型に開いていくと同時に、それを追うように砲撃が回ってくる。どうやら対空砲が機体に備え付けられているようだ。
 次の瞬間三人の機体にあざ笑うようなアークの声が割り込んできた。
『よくわかったね。マクスウェル。ここは"俺たちのエリア"だよ。空軍の技術なんてないね。最先端のための非公開基地じゃなかったのかい? ストルウェル』
『うるさいなあ。飛行中はタックネームで呼ぶ様にっていってるだろうに』
 ストルウェルが嘆く声が聞こえてくる。笑うところではない。
 舌打ちしながらアザミは息をついた。
「敵さんにそんな言葉が通用する訳ないでしょ。馬鹿ね」
 そう呟く。下からオレンジ色の光はとまらずに放たれてくる。
 軌跡が分かるのはありがたいがこのままでは防戦一方だ。
「レックス! スピン! 無事?」
『俺は大丈夫だ』
『なんとかね』
 こちらの声に二人が応えてくる。その声に安堵してからピッチダウン。S字に飛行しながら銃弾を避け、敵機に近づく。遠距離攻撃可能な武器が切れてしまった今、アザミにできるのは近接した後機銃で撃ち落とすか、一発あるブラストで敵機を撃墜するか。
 少しロール。
 そのままスライスバックと見せかけてピッチダウン。
 敵の装甲目掛けて機銃を放つ。
「え?」
 揺らぎもしない。巨大すぎる。
 戦闘機を相手にするのとは格が違うのだろう。機銃の弾丸が表面に弾かれているようだ。
 そのままロールして急旋回。
 敵の機体が向かう方向はオールドクロスフォード。
 街が焦土にされるのは避けたい。あの街だけは。
「させないわ」
 小さく呟く。
 インメルンターンで高度をあげる。ロールする際敵機の表面が見える。こうしてみると巨大で、それはアザミやスコットの乗る戦闘機の十倍近く、正三角形の空中戦艦といってよい。それも最高に硬いときた。
 滑らかな表面。そこから対空砲が顔を出し、こちらを狙ってくる。狙い撃ちしようと操縦桿を握ると横からスコットの機体が速度をあげてつっこんできた。
「あぶない!」
『すまん』
 彼は一言だけ謝るとピッチアップ。みるとその対空砲は煙を上げていた。装甲もはがれているからどうやら内側からえぐれば破壊できるらしい。
 よくやる。
 彼は考えたようだ。
 次の瞬間アザミもスコットを追って上昇。
 手元のメーターをみると、笑いがとまらなくなる。
 アイデアが思いついたのだ。
「ストルウェル、あれがあったよね! なんだっけ......なんとかステルス! 一番強いやつ!」
『イーグルステルスのこと? あれはまだβ版だよ』
「あれを使いたい。このままじゃ相手に近づけない。さっきレックスのをみていいことおもいついた」
 アザミがそういうと隣からスコットが割り込んできた。
『俺らでそれを使うとスピンが狙い撃ちされることになる。さっきのってなんだよ』
 彼がきいてくるが無視。ジャックの機体にだけは積んでいないらしい。しばしの間を挟んでから、ストルウェルが言ってきた。
『スピン、最高到達可能高度まで上昇しろ。そこまで敵の砲撃は届かない』
『了解』
 判断が早い。アザミは思わず笑みを浮かべた。
 下方では敵がこちらに向けて対空砲を放ってくる。隣を平行するスコットとアザミの機体はスロットルを僅かにあげ、速度をあげた。
『そこから先には何が見える?』
 ストルウェルがきいてくる。しばし待ってからスコットが応えた。遥か前方に巨大な河川が流れていて、渓谷があった。その先には巨大な建造物がうっすらと見える。
『ダムがあります。建設中なのかな......水が溜まってません』
 空が曇ってくる。雨が強くなってきた。顔をしかめる。
 状況はプライムでも把握しているのだろう。
『これからの飛行経路とタイミングをストローク5でのみ解読可能な最新暗号で指示する』
 しばらくして二つ目の指示。
『スピンは二人の指示に従え。タイミングと同時に急降下爆撃。ディーノ、レックスとのやり取りはその暗号で行え。こちらからはその暗号方式は使えない』
「了解」
 速度をあげる。ストルウェルの判断は恐らく正しい。予定した状況ではない。
 途中までは指示する。あとは自由に。
 そういうことだ。
 やるしかないのだろう。続けてプライムから指示書が送られてきた。
『幸運を。指定時間にオールドクロスフォードの空域に敵機が入り込んだ場合、撃墜のための部隊を送り込む』
「問題ないわ。ありがとう」
『やるかね。仕方ねえ』
 スコットが言ってくる。アザミはピッチダウン。遥か左に敵機が見えた。こちらに向かって対空砲が放たれてくるがスコットとアザミの機体は軽々と回避していく。
 前方にダム。巨大な機械とコンクリートが見える。
 タイミングは一瞬。自分は存在しなくなるのだ。
 その事実は何故か気分を高揚させた。
 アザミは隣を飛行するスコットを一瞬だけみた。眼前に堤防が迫る。
 イーグルステルス、発動。
 ピッチアップ。
 そのまま機首を空に向ける。
 スロットル・ハイ。速度を上げながら口の中でつぶやいた。みていろ。
 操縦桿を握りしめた。やってやる。



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