episode 20: Supermassive Black Hole



 八機の前方で整備士が手をあげながらカウントダウンを始める。直線上に並んだ八機の最新型戦闘機のエンジンが次々と点火していく。耳をつんざく轟音と共に基地の間を風が駆け抜けた。
 機体が滑走路に入っていく。正門ゲートが横に開き、くたびれた道路が消えると幅の広い滑走路が現れた。
 ゲートの隣に立っている兵士が人差し指を立てた。それをみたニコルが両腕を振り下ろす。
 軽い音と共に機体が弾き出され、等間隔を置いて八機が次々と発進した。
 離陸していく。
 それを見上げながら、ストルウェルは呟いた。
「健闘を」
 轟音が突き抜けていく中でその科白を聞き取ったのか、フレミングが尋ねてきた。
「不安?」
「いつものことです」
 素っ気なくそう答えるとうつむきながら小さく笑みを浮かべる。
「ああやって飛んでいった部下のうち、何人が生きて帰ってくるのかってね。大抵は誰か一人いなくなってくるんですが」
「考えても仕方ないことだけれど、考えなければならないことだね。それは」
 そういうとフレミングは手を伸ばしてこちらの肩をたたいてきた。
「誰からも言われるし自分でも考えなければならない問題さ」
「はい」
「すくなくても彼らは生き残るのと同じくらい戦うことを考えてるはずだから」
 彼がその科白を言い終わる頃、全ての戦闘機は暗い空に向かって飛び立っていた。
 その余韻を残しながら正面ゲート近くではニコルが腕をおろし、ゲートを閉じる合図をしている。その上で夜の闇に消えていく八つの光に視線をやると、
「いつものことですから」
 と素っ気なく伝える。考えすぎは毒なのは分かっているのだ。
 ストルウェルは滑走路にきびすを返して、建物の中に入った。

 ++++
 
 離陸した八機は三角形に編隊を組むと、予定通りのルートにはいる。
 アザミは隣に並ぶ七機を見て、今にもスロットルを押し上げたくなる衝動を押さえ込もうとした。
 そのこちらの行動を予想したように中央プライムから連絡が入ってくる。
『ディーノ、余計な真似はするな』
 タックネームを呼ばれ思わず舌打ちする。
『目的地までは編隊に加われ。現場に到着次第自由行動を許す』
「現状を教えてください」
 警告を流しながら相手に尋ねる。横のレーダーには敵機の姿は無い。
 そこに衛星からの映像が送られてくる。緑色の糸で作られたドーム型のレーダーが周辺の状況を報告してくる。声が今度は違う管制官だった。
『五十七秒後にディプロ、スプリングが合流します。十二時の方向、距離四十キロ後方に敵機』
「数は?」
『機種はレッドウェアウォルフ04。五機です。速度九百四十キロ。高度一万五千』
「指示を」
 アザミは小さくそういうとスロットルを強く握りしめた。
「こちらの機体は八機、ディプロ、スプリングと合流すれば合計十機。数で勝ります。編隊を離れる許可をください」
『ディーノ、なに勝手に言ってんの』
「ラプター?」
 シーナ。
 彼女のタックネームを思わず口に出しながらいぶかしげに眉を潜める。
『中央プライム、私もディーノにつきます。単独では生き残る確率は低いと判断します』
『二機編隊での離脱を許可する。ルートCでエリア37へむかえ』
「余計なお世話」
 そういうとアザミはスポイラを展開。速度を落とした。高度を下げて編隊を離れ、大きくロールして左側に角度を曲げる。こちらの動きにあわせてシーナの機体も後ろに続く。
「あたし一人でいい」
『そういわない』
 二機が続けて編隊から離れる。そのまま速度をあげながら目的のエリアへと向かう。
 しばらく二機で飛んでから、シーナが口を開いてきた。
『ルートCの作戦を』
『扇状になっているエリアの東側から回り込む。他の機体が戦闘に入っている間に施設の爆撃を』
 お手のものだ。
「ラージャ」
 そういうとアザミは操縦桿を握りしめた。
 シーナが後続する。
 速度をあげるこちらに問題なく彼女がついてくるのをみて、スロットルをダウン。
 何も無くただ時間がすぎる。
 その間二人の間に通信はなかった。
 別段お互いのことを考えているわけでもないだろう。
 六機の編隊が海岸線沿いに飛んでいったのを尻目に、二人の機体は内陸部に入る。
 そのまま山岳地帯を通過。このままいけば目標の上空に達するはずだ。
 すると、そこでレーダが赤い光を放ち、機械の音声で伝えてきた。
『敵機接近。二機』
『十時の方向。機種レッドウェアウォルフ02。および04』
「同じ機種?」
『片方は新型だわ』
 シーナが呟いてくる。
 遥か前方に二つの光点。そこから一つの炎の線が輝いた。
『ミサイルロック』
『ディーノ、右へロール。そのまま離れて。ミサイルは私がやる』
 シーナがそう伝えてくると同時に彼女の機体からミサイルが発射、相手とこちらの間で爆発した。
「かっこつけてんじゃないよ」
 アザミは右へ操縦桿をきる。左手でスロットルを押し込み速度をあげる。シーナの機体よりややさきにでて、こちらと敵機二機は空中で交差した。
「プライム、敵機に見つかりました。迎撃します」
 無線にそう伝えるとアザミは操縦桿を手前に引いて、インメルマンターン。高度をあげた敵機を捉える。ピッチアップのあとターン&ロール、あっという間に敵機の後ろをとった。速度をあげて相手がわずかにロール、旋回していくが、機銃の照準は既にあわせてある。
 今だ。
 放った弾丸が空を裂いて、敵機の翼に命中する。が、傷は浅い。相手はわずかにバランスを崩したまま速度をあげて飛んでいく。
「畜生」
 小さく舌打ちとともにつぶやき、そのまま相手の後ろをつける。今度はミサイルロック。レーダーが動く。
 外さない。
 レーダーの声がこちらの優勢をつたえるやいなや、突然割り込みの無線がはいった。
『クエンフィールド、久しぶりだ』
 低い声。強制的にねじこんだ無線だけあって音声の質は悪かったが、特徴的な低い声がコクピットに響いた。
『お前とやるのはゲームだけかと思ったがそうじゃないみたいだな』
「ホール?」
 なぜその名前がでてきたのかわからなかった。
「あんたなんでそっちにいるの?」
『お前には関係ない』
 すでに前方の機体は闇の中に溶けるように消えている。アザミからはホールがシーナと戦いながら話しているのか、それともさっき撃ったのが彼だったのかはわからなかった。
『関係あるでしょ?』
 その声はシーナだった。次の瞬間アザミの機体を追い越すように二人の機体が斜め上を飛んでいく。シーナがホールの背後を取り、機関銃のオレンジ色の光が見えるが命中にはいたっていない。ふわりふわりとした飛び方で弾丸をかわしながらホールはまだ余裕があるように見える。
 シーナが突然前に出たことにアザミは戸惑う。眉をしかめながら尋ねる。
「なんで? どうしたの?」
『アビーとクー』
 それだけを伝えてくるとシーナの機体は速度をあげた。本気でホールを撃墜するようだ。彼女の声は低く、感情がこもっていない。アザミは眼前で白い光が瞬いたように感じた。
「クーも?」
 思わずつぶやく。瞬間続けて顔には出さないがどこか穴があいてしまったような感覚に襲われる。珍しい彼女の怒り混じった声音が響いてくる。。
『あんたは許さない』
 怨嗟の入り混じったシーナの呟きが無線越しに聞こえてくる。やれやれと息をつくとそのまま彼女の後ろについた。スロットルを押し上げて彼女の機体と速度をあわせる。
「ラプター、あんた落ち着きなって」
 逆だった。本来なら自分をなだめる役割が彼女だった筈だ。
 今のアザミの心は至って冷静で、彼女の方が我を忘れている。しかし。
 相手をなだめている場合ではなく、一時も早く相手を撃墜する必要がある状況だった。
 シーナの激情が無線機越しに感じる。眼前で二機の戦闘は続いているが、シーナが一方的に攻撃しホールがかわしていた。
 彼の機体とシーナの機体の間の距離は開き、彼女が速度をあげているにも関わらず一定距離が保たれている。
 そのさらに後方をついていくようにしてアザミは眉をしかめた。これではまるで......
「ラプター、速度を落として」
『あんたに命令の権利はないわ』
「誘導されている気がする。このルートは......プライム、画像を」
 アザミは手元のレーダーをみて、スイッチをいくつか跳ね上げた。中央から届いた画像が周辺の様相を伝えてくる。
『エリア36-9に突入しました』
「ああ、わかったわかった」
 ため息とともに中央との通信をつなげる。
 罠にはまった気がしなくもない。
「ラプター、ここ、エリア37だよ。骨までやられないように」
 そういうと操縦桿を握りしめた。相手からの返事を待たないうちにフラップアップ。高度をあげて周囲を確認する。旋回しながらあたりを伺う。
 敵機は先ほどの一機が前方を飛んでいるのと、三時方向にシーナとホール。
(扇形の地形......基地はあそこ)
 狙いを定めると今度はピッチアップ。ほぼ垂直になったところでエンジンを吹かして高度を稼ぐと、アザミは今度はそのままターン。
 ミサイルロック。前方の地面のはるか地下にそれはあった。
 心を押し込めるようにして、操縦桿を握りしめる。
 左手でスロットルを押し上げた。その瞬間誰かが叫ぶ声が聞こえた気がする。
 それも幻聴だったらいいんだけど、と思いながら操縦桿を押す。一気に急降下。


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