plorogue




 雲が眼下を流れていく。
 ひたすら、長く。長く。

 隊の仲間から通信が入った。
『ディーノ。それは無茶だ』
「大丈夫」
 ほぼ垂直に上空に向けて飛び立ちながらアザミは言い返した。
「いけるよ」
『その高度から垂直に降下したら君が意識を失うぜ』
「そうじゃない方にはいる」
『無理だ』
「無理って思ってるから」
 ひたすら高度を上げる。アザミの眼前に輝くのは黄金の三日月。
「なんだって無理になっちまうわけ」
 そう言うと機体を反転させ、その場所で円を描くようにして飛行させた。
『高度......十二万? 成層圏超えてるぜ。お前......それやばいだろ』
「知らない」
 そう言うと、アザミは機体の先端を眼下の雲に向けた。その向こうには黒く染まった海が広がっていて、その中心に敵の戦艦が浮かんでいる。
「いまからいくよ。標的補足。最大速度......」
『頼むから意識失うなよ。大佐に言い訳とかしたくねーぜ』
「安心して。成功するから」
 最大高度で最大速度までメーターを上げると、アザミは一気に戦闘機のレバーを押し倒した。


 軽飛行機が一機も停まっていないような寂れた飛行場の一角で、ジャンはニコチンガムの箱を懐から取り出し、口の中に放り込んだ。
 それを噛みながら何にともなく雲が流れていくのをじっと見つめ、小さく呟く。
「なにか、面白い事ないかなあ」
 どうすることもできず。ただ茫洋と青い空を見上げていると、突然広大なブルーの一角に黒い点が現れた。そのままどうするわけでもなく空に視線を向けているとやがてそれはどんどん大きくなり、こちらに向かって降りてくる。
「......ん?」
 最初は鳥かなにかと思っていたが違和感を感じて立ち上がる。こちらの領空に紛れ込んだ敵機の可能性もあるから、その場合は適切な対応をしなければならない。
 しかしこの空域だと味方の可能性もある。この辺境にある飛行場を知っているのは味方の空軍部隊しかありえないからだ。
 どちらにしても一機で飛来するのはどこか違和感があった。ここにくる戦闘機は編隊を組んで行動することが多かったし、単独行動はよほどの事が無い限り行わない。
 判断に迷いながらそれをそのまま見つめていると、その間にもその黒点はぐんぐんと大きくなってくる。
 黒い戦闘機だった。ちょうど下から見ると黒い十字架が空を飛んでいるようにさえみえる、新型の偵察機だった。
 そのまま轟音を響かせながらジャンの上を通り過ぎると、空中で大きく迂回して、緩やかな動作で滑走路に着地した。こちらにむかって滑るように進んで来ると眼前で停止した。
 みたことない型だった。唖然とそれを見上げ、端から端まで観察する。
 機体の先端から尾翼に至るまで全て黒ずくめの偵察機だ。機体の下にミサイルを格納する弾薬倉が見えるため偵察爆撃機の類のようだ。機体の横に味方を示す「LAF」の文字が見えたためやや安心する。
 その下に「DINONICS」と書かれている。タックネームだろう。
 警戒しながらジャンがその機体の下まで歩いてくると、唐突にコックピットが開いてパイロットが顔を出してきた。相手が着ているそのジャケットが身内の物であることを確認して胸をなで下ろす。
 相手はヘルメットに手をかけるとそれを外した。その瞬間ふわりと黒髪が広がる。
 そのパイロットは、女性だった。
 切れ目の双眸はくっきりとした二重で、太くて印象的な眉が彼女の強さを印象づけているようだった。美人に属する顔立ちだが、かわいいというより凛々しいといった言葉の方が似合う風貌だ。フライトスーツの上にフライトジャケットを羽織っているその姿は空軍の同僚たちよりはるかに似合っていて、男らしいという言葉で形容できそうだ。
 呆然としているこちらを見下ろし、彼女は口を開いてきた。
「ねえ、司令官は?」
 澄んだきれいな声だ、とジャンは思った。自分を叱咤すると急いで頷く。
「あ、ああ。案内するよ。ちょっとまっててくれ。君の名前は?」
 相手に名前を訊ねる。彼女は別に気にしたふうでもなくちょうど機体を降りて地面に足をつけたところだった。ジャケットを手ではらうと、こちらをみてくる。
「アザミ。アザミ・クエンフィールド少尉。司令官にそう伝えてもらえればわかるわ」
「隊員証はあるよね」
 相手が差し出してきたカードを一瞥すると、ジャンは軽く頷いた。確かに身内の軍隊の隊員であることを示す証明書だった。女性がいるということ自体驚きだったが。
 相手に対して軽く手招きすると、司令棟のほうに歩き始めた。
「案内するよ。ついてきて」 


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